リッファーツガーデン

大きな古い家は、赤と白と青のイギリス国旗の様にペイントされていて、私は1階にある2部屋のうちの1部屋を借りた。
そのエリアは、プロスペクトリッファーツガーデンといい、ジャマイカンが多く住んでいる。外を走る車から、大音量のベース音が聞こえては、部屋が震えた。
プロスペクトパークに隣接し、緑が多く、歩道には、立派な楓の木が並び、雪が降る夜、街灯越しに大樹を見上げると、とても奇麗だった。
家の表庭には、大きな木蓮の木と、紫陽花が、特に手入れをされずとも美しい花を咲かせた。
裏庭に面するキッチンの窓は、東向きで、明るく、裏庭に住むお爺さんの小屋が見えた。
彼の名前は、ジョン、当時83歳。
80年代に銀行からお金を貸してもらえず、ホームディポで小屋を買い、大家さんへ2万円を払い、小屋を置かせてもらった。それ以来ここに住んでいる。
電気もガスも水道もなく、缶フードを食べて沢山の猫と住んでいる。
お天気のいい日は、子猫が陽だまりでじゃれあって、ジョンがピアノを弾いたり、ハーモニカを吹いた。
お湯が沸騰するのを待ちながら、そんな風景をよくぼんやりと眺めていた。
なんとなくジョンと話しをするようになって、カナダの牧場で育ったこと、朝鮮戦争に参加して、右足を撃たれたことなど話した。
お互いに無責任な関係のたわいもない会話は、どこへいくこともなく、息抜きに丁度良かった。
ジョンは、次々に生まれてくる猫の世話をする、けれども半野生で最初の1年を乗り越えられる子猫は多くない。
猫は自然淘汰され、10匹前後が常時ジョンと生活している。
何匹もの猫の死を毎年目の当たりにして、猫とお爺さんは、生き抜いている。
〝この生活が好き、やっぱり猫がいい、かわいいし、暖かいから。″